お昼ごはんの時間。職員は奥で配膳中で、手前の男性が急にむせ始めました。同じとき、別のテーブルの女性が立ち上がろうとしています。あなたなら、最初にどこへ動きますか?
この記事は、食事介助のKYT(危険予知トレーニング)にそのまま使える例題と解答です。食堂のイラストにひそむ危険6つと、何から動くかの順番、勉強会での使い方をまとめました。施設で生活相談員をしているわすれものが、Xで出題した問題をもとに書いています。

例題|この食堂で、最初に動くならどこですか?
上のイラストを見て、危ないところを探してみてください。ひとつではありません。
条件は、居室を舞台にした1問目と同じです。職員はあなた一人で、全部を同時には直せません。見つけた危険に、手をつける順番もつけてみてください。
KYTそのものの説明と1問目は、介護のKYT例題|居室のイラストで探す危険8つと解答にあります。
解答|この食堂にひそむ危険6つ
1. むせている男性
手前の男性は、口元に手を当てて強く咳き込んでいます。食事中のむせは、食べ物が気管に入りかけているサインです。誤嚥(食べ物や飲み物が気管に入ること)や、窒息につながることがあります。
強く咳ができているうちは、体が自分で出そうとしています。けれど、声が出ない、顔色が悪くなる、のどをつかむようなしぐさが出たら窒息を疑います。その見きわめは、そばに行かないとできません。
対応は看護師を呼び、施設の手順に沿って行ってください。日ごろからむせやすい方なら、食事の形や姿勢を見直すきっかけにもなります。
2. よそ見をしながら立ち上がる女性
奥のテーブルの女性は、テーブルに両手をついて腰を浮かせています。顔は横を向いていて、足もとを見ていません。
立ち上がりの途中は、いちばんふらつきやすい姿勢です。視線の先には壁ぎわのシルバーカーがあり、取りに行こうとしているのかもしれません。目的があって立つ方ほど、声をかけられるまで止まりません。
3. 足もとにこぼれたごはん
女性の足もとには、ごはんやおかずがこぼれています。立ち上がって最初の一歩が、ちょうどそこに乗ります。
床に落ちた米粒は、踏むと思った以上に滑ります。食堂は、食事のあとに床を拭くまでのあいだが危ない場所です。
4. 壁ぎわに置かれたシルバーカー
女性のシルバーカーは、テーブルから離れた壁ぎわにあります。立ち上がって歩き出しても、つかまる物がない状態です。
食事のあいだ、シルバーカーを壁ぎわへ寄せる施設は多いと思います。通路をあけるためには必要なことです。ただ、ご本人が自分で取りに行こうとすれば、支えのない数歩が生まれます。
5. 手をついた先の、湯気の立つお茶
女性が手をついたすぐ先に、湯気の立つ湯のみがあります。体を支えようとして手が当たれば、熱いお茶がこぼれます。
高齢の方は皮膚がうすく、熱さに気づくのも遅れがちです。小さなやけどでも、治るまでに時間がかかります。湯のみをテーブルの奥に置くだけで、危なさは減ります。
6. 背中を向けて配膳している職員
奥の職員は、ワゴンのほうを向いて配膳をしています。食堂全体に背中を向けているので、むせにも立ち上がりにも気づけていません。
配膳そのものは悪くありません。危ないのは、食堂のなかを誰も見ていない時間ができていることです。6つのなかでいちばん気づかれにくく、ほかの5つの根っこにある危険かもしれません。
何から動くか|私の答えは「女性には声で、体は男性へ」
6つのうち、命にかかわる早さでいえば男性のむせです。窒息は数分で取り返しがつかなくなります。かといって、立ち上がりかけた女性を放っておけば、転倒につながります。
そこで私の答えは、女性には声で、体は男性へ、です。
女性には、離れた場所から「〇〇さん、すぐ行くので座って待っていてくださいね」と声をかけます。立ち上がりは、声で止められることがあります。一方で、むせている男性の様子は、そばに行かないと分かりません。
声で止められる危険と、そばに行かないと分からない危険。体を向けるのは後者です。男性のそばへ向かいながら、大きな声で応援を呼びます。一人で全部を止めようとしないことが、この場面のいちばんのこつです。
そのうえで、次の順に整えていきます。
- 女性に声をかけ、座って待ってもらう
- むせている男性のそばへ行き、様子を確かめる
- 大きな声で応援を呼び、看護師につなぐ
- 来てくれた職員に、女性の見守りとシルバーカーをお願いする
- 湯のみを奥へ移し、床のこぼれを拭く
- 配膳中の立ち位置と、見守り役の決め方をチームで話し合う
最後のひとつは、その場で一人では直せない対策です。気づいたことを記録に残して、カンファレンスや勉強会に持ち帰ります。
SNSで出題したら、答えはこう割れた
このイラストをXで出題したところ、10件を超える答えが集まりました。最初に動く先で分けると、次のような割れ方でした。
- むせている男性へ(女性には声だけかける):いちばん多い
- まず女性を座らせてから、男性へ:何人か
- 熱いお茶・床のこぼれ・職員の立ち位置に触れた答え:少数
1問目の居室では、床のコードに答えが集まり、ご本人への声かけは少数でした。今回は逆で、多くの方が人を先に見ていました。食事中のむせに、現場で一度は肝を冷やした経験のある方が多いのでしょう。
一方で、お茶や床、職員の背中に気づいた答えは多くありません。人の動きが目立つ絵ほど、物や環境の危険は見落とされます。KYTを何枚か続けると、こうした目のくせが見えてきます。
答えの順番が割れたことにも意味があります。「女性を先に座らせる」という答えにも、転倒を防ぐという筋の通った理由があります。どちらが正しいかより、なぜその順番にしたかを話し合うことが学びになります。
施設の勉強会での使い方(約20分)
食事介助のKYTとして勉強会で使うなら、中央労働災害防止協会(中災防)の「4ラウンド法」がそのまま使えます。手順の詳しい説明は1問目の記事に書いたので、ここではこの絵に当てはめたときの答えの例だけ並べます。
1ラウンド|どんな危険があるか(5分)
「男性がむせているので、窒息するかもしれない」「女性が足もとを見ずに立つので、こぼれたごはんで滑る」のように、「〇〇なので、〇〇になる」の形で出し合います。
2ラウンド|これが危険のポイントだ(5分)
出た危険のうち、いちばん重大なものに印をつけます。この絵なら「むせている男性に、誰も気づいていない」が候補になるでしょう。
3ラウンド|あなたならどうする(5分)
「女性には声をかけ、男性のそばへ行く」「大きな声で応援を呼ぶ」のように、その場でできる行動で答えます。
4ラウンド|私たちはこうする(5分)
チームで実行することを1つ決め、短い合言葉にします。たとえば「配膳中も、ひとりは食堂を向く。ヨシ」。全員で唱和して終わります。
事故の振り返りとあわせるなら、食事介助の場面も載せている介護施設で多いヒヤリハット事例8選も使えます。
応用|職員がもう1人いたら?
慣れてきたら、条件を変えて同じ絵を使ってみてください。たとえば「職員がもう1人、食堂にいたら」と問いかけます。
2人いれば、男性と女性に1人ずつ向かえます。ところが、実際の現場では2人とも男性へ走ってしまうことがあります。誰がどちらへ行くかを、ふだんから決めておく必要に気づけるはずです。
反対に「職員が奥の厨房にいて、食堂が見えない」という条件も考えられます。見守りの空白をどうつくらないか、配膳の段取りから見直す話につながります。見守りの考え方は見守りとは何かでも書きました。
食堂は、一度にいくつもの危険が重なる場所です。全部を一人で止められない場面ほど、手より先に声を使ってみてください。

この絵を出題したとき、多くの方が真っ先にむせている男性を挙げました。現場で冷や汗をかいた経験が、答えに表れていたように思います。一方で、湯のみや職員の背中に気づいた方もいて、私自身がはっとしました。何人かで見ると、一人では見えないものが見えてきます。
