夜中の2時、センサーが鳴って駆けつけると、ベッドの横に座り込んでいる。「トイレに行こうと思って」。ナースコールは、手の届くところにあったのに。
この記事では、ナースコールを押さないままトイレに向かう方の転倒を、施設でどう減らすかを6つの手立てにまとめました。センサーやオムツを最初の手にしない、という順番です。書いているのは、施設で生活相談員をしているわすれもので、私の施設で実際にしている工夫も入れています。
先に結論|トイレに行きたい気持ちは止めない。転び方を小さくする
トイレに行こうとして転ぶ方を前にすると、「行かせないようにする」方向に考えがちです。センサーをつける、オムツにする、立とうとしたら座ってもらう。
でも、トイレで排泄したいという気持ちは、その方の自分らしさそのものです。止めようとするほど、本人は職員のいないすきに一人で行こうとします。
目指すのは「行かせない」ではなく、「行くときに転びにくく、転んでも大けがにしない」こと。以下の6つは、手前から順に試していく手立てです。
そもそも、なぜナースコールを押さないのか
理由を知っておくと、手の打ち方が変わります。よくあるのは次のような理由です。
- 夜中に呼ぶのは申し訳ない、と遠慮している
- 押し方や、押すと誰が来るのかを覚えていない
- 呼んでも間に合わないと思っている
どれも、本人のわがままではありません。押さないことを責めるより、押しやすく、押さなくても転びにくい形をつくるほうが近道です。
手立て1|トイレまでの動線を整える
私の施設でまず見直すのは、ベッドとポータブルトイレの位置です。起き上がってから、何歩で、どちら向きに移れるか。移りやすい向きに置き直すだけで、ふらつく場面がぐっと減ります。
つかまる場所があるか、足元は暗すぎないか、床に物が置かれていないかも、あわせて見ておきます。夜間の環境の整え方は、介護の転倒対策|転倒を減らす5つのポイントでも書きました。
手立て2|「呼んでください」を見える場所に貼る
ポータブルトイレに「トイレに行くときは、コールを押してください」と書いた貼り紙をつけています。口で何度伝えても、夜中に目が覚めた瞬間には忘れてしまうからです。
貼る場所は、ベッドに座ったときに自然と目に入る高さが目安。ナースコールのボタンも、貼り紙と同じ側に置いておくと、手が伸びやすくなります。
手立て3|字が読みにくい方には、絵で伝える
視力や認知症の進み方によっては、貼り紙の字が読めない方もいます。そういう方には、トイレとボタンの絵を使った貼り紙に替えます。
「押せたとき」には、翌朝に一言かけてください。「夜、呼んでくださって助かりました」。呼ぶことが迷惑ではなく喜ばれることだと伝わると、次も押してもらいやすくなります。
手立て4|呼ばれる前に、こちらから誘う
トイレに向かう時間には、その方なりのリズムがあります。夜の何時ごろに起きるか、起きる前にどんな様子があるか。数日分を記録すると、だいたいの見当がつくようになります。
見当がついたら、呼ばれる前にこちらから声をかけます。「そろそろお手洗い、一緒に行きましょうか」。本人が一人で立ち上がる前に職員がそばにいれば、転倒の場面そのものが減ります。
記録するのは、起きた時刻と、起きる前の様子です。布団をめくる、もぞもぞと体を動かす、独り言が増える。こうした前ぶれに気づけると、声をかけるタイミングがつかめます。尿の回数や量が気になるときは、看護師と共有しておきましょう。
手立て5|転んでも大けがにしない
ここまでしても、転倒をゼロにはできません。だから私の施設では、ベッドを低床にしています。床に近い高さなら、ずり落ちても大きなけがになりにくいからです。ただ、低すぎると今度は立ち上がりにくくなる方もいます。日中に自分で立つ力が残っている方なら、高さを看護師やリハビリ職と相談して決めてください。
転倒を「起こしてはいけないもの」とだけ考えると、行き着く先は動きを止めることになります。防げない事故があることを前提に、けがを小さくする手を持っておく。その考え方は、防げる事故と防げない事故で詳しく書きました。
手立て6|職員の目が届きやすい居室に移る
それでも転倒が続くときは、職員の目が届きやすい居室への変更を考えます。詰め所に近い部屋なら、物音や起き上がりに早く気づけます。
ただ、居室を移ることは、その方の生活の場を動かすことです。本人とご家族に理由を説明し、納得してもらってから進めます。
移るときは、使い慣れた物や写真もいっしょに運びましょう。部屋が変わっても「自分の場所」だと感じられると、落ち着かない時期が短くなります。
センサーやオムツは、カンファレンスで決める
6つの手立てを試しても危険が残るとき、はじめてセンサーやオムツへの切り替えを考えます。私の施設では、介護職・看護師・生活相談員のカンファレンスで話し合って決めます。
誰か一人の判断で決めないのは、センサーが使い方しだいで「立ったら座らせる道具」になるからです。行動を止める方向に使えば、身体拘束の問題に近づきます。センサーの使い方は離床センサーに振り回されないために、拘束との線引きは介護の身体拘束のグレーゾーンを参考にしてください。
オムツへの切り替えも同じです。排泄の状態や体の変化については、看護師や医師の見立てを聞いてから決めます。決めた理由は、記録に残しておきます。
試したことは、記録に残す
手立てを試したら、何をして、どうだったかを記録に残します。「貼り紙をつけた」「22時と2時に誘った」「低床ベッドに替えた」。結果がよくても悪くても、書いておくことで次の判断の材料になります。
転びそうになった場面も、ヒヤリハットとして残しておくと傾向が見えてきます。書き方は介護施設で多いヒヤリハット事例8選も参考にしてください。
家族への伝え方|「状態に合わせて変えています」
センサーをつけたり、オムツに切り替えたりすると、ご家族は「悪くなったのか」「楽をするためか」と不安になります。
私が説明するときは、「ご本人の体の状況やリスクの変化に合わせて、ケアを変更しています」と伝えています。そのうえで、ここまで試した手立てと、カンファレンスで話し合った内容を順にお話しする流れです。いきなり決めたのではなく、段階を踏んで決めたことが伝わると、ご家族も受け止めやすくなります。
よくある質問
夜だけオムツにする、という選び方はあり?
あります。日中はトイレ、夜だけはオムツやパッドで休んでもらう、という組み合わせです。ただ、本人が夜もトイレに行きたがるなら、その気持ちは残ります。本人の希望も聞いたうえで、カンファレンスで決めてください。
何度伝えても、ナースコールを押してくれません
押さないことを責めると、かえって職員を呼びにくくなります。貼り紙の場所、絵への切り替え、誘う時間の見直しなど、手立て2〜4をひとつずつ変えてみてください。押してもらえた日には、ぜひ「助かりました」と伝えてください。
トイレに行こうとして転ぶのは、その方がまだ自分で生活しようとしている証です。その気持ちを止めずに、転び方を小さくしていきましょう。

「また一人でトイレに行って転んだ」と聞くと、職員としてはため息が出ますよね。でも、行こうとする力があるうちは、その方の大事な力です。止めるより、行きやすく、転んでもけがをしにくく。チームで少しずつ整えていきましょう。
