入浴日の午後、声をかけると「今日はやめとく」と首を横に振られた。予定表には名前があって、浴室では次の方も待っています。
この記事では、入浴拒否の対応で職員が迷う「どこまで誘うか」「どこで切り替えるか」を、4つの線引きにまとめました。声かけの言い回し集ではなく、断られたあとの判断の順番です。書いているのは、施設で生活相談員をしているわすれものです。
先に結論|目標は「入ってもらう」ではなく「清潔でいてもらう」
特別養護老人ホームの運営基準には、1週間に2回以上、入浴させるか清拭(せいしき・体を拭くこと)をする、と書かれています。ユニット型の施設でも、やむを得ない場合は清拭で入浴に代えられる、とされています。入浴だけが正解として決められているわけではありません。
つまり、守るべきなのは本人の清潔と快適さです。曜日の予定は、それを回すための施設の都合にすぎません。
入るかどうかを決めるのは、曜日ではなく本人。この前提に立つと、断られたときに「どう説得するか」ではなく「次に何を出すか」を考えられるようになります。
線引き1|断られたら、まず理由を1つだけ聞く
「今日はやめとく」の裏には、たいてい理由があります。寒い、疲れている、体がだるい、待たされるのが嫌、前回こわい思いをした。理由が分かれば、打つ手も決まります。
聞き方にはこつがあります。「どうして入らないんですか」と聞くと、責められていると感じる方もいるでしょう。「寒いですか?」「少し疲れましたか?」と、答えやすい形で1つずつ聞いてみてください。
理由ごとに、打てる手はだいたい決まっています。寒いなら、脱衣所と浴室を先に温めておく。疲れているなら、午前と午後を入れ替える。待たされるのが嫌なら、その日の順番をいちばん最初にする。前回こわかったなら、記録をさかのぼって何があったかを確かめます。
理由が体調なら、無理に誘わず看護職員に伝えます。熱っぽい、顔色が悪い、といった変化が隠れていることもあるからです。
線引き2|同じ人が誘うのは2回まで。3回目は人か時間を変える
同じ職員が何度も誘うと、誘いはだんだん説得になります。本人は「断ったのに、また言われた」と感じ、次からはもっと固くなるでしょう。
目安として、同じ人が同じ時間に誘うのは2回まで。それでも難しければ、別の職員に代わる、1時間後に声をかけ直す、明日に回す、のどれかに切り替えます。人が代わるだけで、すっと入ってくれる方は少なくありません。
誘い方も見直せます。「お風呂に入りませんか」と聞くと、断る選択肢を先に渡してしまいます。「お湯が温かいうちにどうぞ。今日は一番風呂ですよ」のように、入りたくなる理由を添えて誘うほうが通りやすいものです。
誘うタイミングも効きます。食事やおやつのあと、気持ちがほぐれているときは通りやすい。逆に、昼寝から起きたばかりのときや、好きなテレビ番組の途中は避けたほうが無難です。本人の一日の流れを知っている職員ほど断られにくいのは、このためでしょう。
線引き3|何日で切り替えるかを、チームで先に決めておく
いちばん迷うのは、断られる日が続いたときです。入浴拒否の対応を職員それぞれの判断に任せると、ある人は強く誘い、ある人はあっさり引く、とばらばらになります。
そこで、入らない日が続いたときの対応を、ケア会議などで先に決めておきます。たとえば次のような形です。
- 入らなかった日は、清拭と着替えで清潔を保つ
- 足浴や手浴など、部分的にお湯に触れる時間をつくる
- 入らない日が続いたら、看護職員・ケアマネジャー・家族と共有する
何日目から何をするかは、その方の皮膚の状態や持病によって変わります。日数は施設ごと・その方ごとに、看護職員と相談して決めてください。決めた内容は申し送りで全員にそろえます。
入らない日が続くあいだは、皮膚の赤みやかゆみ、においの変化に気をつけて見ておきましょう。とくに陰部やおしりは、排泄のたびに清拭で清潔を保てます。お風呂に入らない日でも、清潔をあきらめる日にはしない、という考え方です。
線引き4|記録に「拒否」とだけ書かない
「入浴拒否」の4文字だけの記録は、次の人に何も残しません。読んだ職員は、同じ誘い方をして、同じように断られます。
書いておきたいのは、断られた理由と、代わりに何をしたかです。たとえば「14時に誘うと『寒いからやめとく』。15時に別の職員が誘うも同様。清拭と着替えを行う」と書けば、明日の職員は時間か誘い方を変えられます。
「拒否」という言葉そのものも、本人を困った人として見せてしまう言葉です。「入らないことを選んだ」と書く施設もあります。記録の書き方は、介護施設で多いヒヤリハット事例8選も、あわせて読んでみてください。
「促すと怒る」方に、やってはいけないこと
強く断る方を、何人かで抱えて浴室へ連れていく。嫌がっているのに服を脱がせる。急いでいる日ほど、こうした場面が起きがちです。
本人の意思に反して力で連れていくのは、不適切なケアにあたります。身体拘束の問題とも地続きです。どこからが拘束になるかは、介護の身体拘束のグレーゾーンで整理しました。
無理をすれば、職員がたたかれたり引っかかれたりする危険も高まります。もし暴力を受けてしまったときの動き方は、利用者から暴力を受けたら|職員を守る5つの順番にまとめています。
曜日の予定は悪者ではない
入浴の曜日が決まっているのは、浴室の数や職員の人数が限られているからです。予定がなければ、入浴そのものが回りません。
変えたいのは、予定を守るために本人を合わせることのほうです。夜に入る習慣だった方、同性の職員を希望する方、混んだ浴室が苦手な方。予定の側を少し本人に寄せるだけで、断られる回数は減っていきます。
たとえば、毎回午前に断る方が、夕方なら気持ちよく入ってくれることがあります。若いころから夕食前に入るのが習慣だった方なら、なおさらです。入浴表を1人分だけ動かすのは、思っているほど大きな手間ではありません。
認知症の方が嫌がる理由そのものは、家族向けに認知症の介護拒否がつらいで書きました。職員にも参考になる部分があります。
よくある質問
家族から「入れてもらえていない」と言われたら?
記録をもとに、誘った回数と断られた理由、代わりに行った清拭などを説明します。「入れていない」のではなく「本人の希望に合わせて清潔を保っている」と伝えられるのは、記録が残っているときだけです。
同性の職員に介助してほしいと言われたら?
できる範囲で応えたい希望です。裸を見られることへの恥ずかしさが、断る理由になっている方は少なくありません。毎回は難しくても、入浴日の担当を調整するだけで、すんなり入ってくれることがあります。
入浴拒否が続くとき、ケアプランに書いたほうがいい?
続くようなら、ケアマネジャーに相談してみてください。入浴の時間帯や方法の工夫を、ケアプランに位置づけて見直すことがあります。チームの対応をそろえる助けにもなります。
断られた日は、失敗した日ではありません。理由を聞いて、手を変えて、記録に残せば、それは次の日につながる一日です。

「今日は入らない」も、その方の大事な選択です。曜日に合わせてもらうより、その方の「今日なら入ってもいいかな」に合わせる。そのほうが、職員も利用者さんもずっと楽になります。
