利用者から暴力を受けたら|職員を守る5つの順番

手に絆創膏を貼った若い介護職員に、先輩職員がしゃがんで「けがはない?」と声をかけるイラスト 介護の仕事と人間関係

入浴介助の途中で、腕を強くつかまれ、手の甲を引っかかれた。痛みより先に浮かんだのは「私の声かけが悪かったのかな」という考えでした。

この記事では、利用者からの暴力や暴言を受けたときに、職員を守る対応の順番を5つにまとめました。その場を離れる、けがを確かめる、記録する、報告する、チームで考える、の順です。後半には、報告を受ける上司の側の心得も書きました。書いているのは、施設で生活相談員をしているわすれものです。

先に結論|本人を責めないことと、職員を守ることは両立します

「認知症だから仕方ない」「プロなんだから笑顔で」。現場では、そう言われて我慢している人が少なくありません。

たしかに、認知症の方の暴力や暴言には、病気の症状として出ているものがあります。厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」にも、そう書かれています。症状による言動は、ハラスメントとは分けてケアで対応する、という考え方です。

ただ、同じマニュアルは続けてこうも書いています。症状による暴言や暴力であっても、職員の安全に配慮する必要は変わらない、と。

症状は仕方ない。でも、職員が傷つくことまで仕方ないにはしない。本人を責めないことと職員を守ることは、ぶつかりません。この区別が、これから書く5つの順番の土台になります。

利用者からの暴力を受けたときの、5つの順番

迷ったときは、上から順に進めてください。順番を決めておけば、動揺していても手が止まりません。

1. まずその場を離れる。ひとりで抑えようとしない

最初にするのは、自分の安全を確保することです。マニュアルでも、発生したときは職員の安全を第一に、とされています。

とはいえ、利用者をひとりにすると転倒が心配な場面もあるでしょう。そのときは近くの職員を呼んで、交代してもらいます。声が届く距離まで下がるだけで、相手が落ち着くこともあります。

避けたいのは、ひとりで腕を押さえ込むことです。力で止めると、お互いのけがにつながります。身体拘束の問題にも近づくので、止めるより離れるを選んでください。どこからが拘束にあたるかは、介護の身体拘束のグレーゾーンで整理しています。

2. けがを確かめて、必要なら受診する

落ち着いたら、けががないかを確かめます。引っかき傷や噛まれた傷は、小さく見えても看護職員に見てもらいましょう。受診が必要かどうかは、看護職員や医師の判断に任せます。

業務中に受けたけがは、労災保険の対象になることがあります。対象になるかを決めるのは労働基準監督署です。ただ、申請するには「いつ、どこで、何があったか」の記録が要ります。「このくらいなら」と黙っていると、あとで困るのは自分です。

3. 起きたことを、そのまま記録する

次に、起きたことを記録に残します。書くのは、いつ・どこで・何の介助中に・何をされたか・けがの有無です。

直前の様子も書いておくと、あとで原因を考える材料になります。たとえば、声をかける前は眠っていた、トイレに行きたそうだった、といったことです。

「少し」「しばらく」のような言葉は避けて、数字で書くのがこつ。「少し興奮」より「10分ほど大きな声が続いた」のほうが、読む人に伝わります。言われた言葉は、きつい言葉でもそのまま書いてください。

記録は、利用者を責めるためのものではありません。職員を守り、ケアを見直すためのものです。事故やヒヤリハットの書き方は、介護施設で多いヒヤリハット事例8選も参考になります。

4. その日のうちに上司へ報告する

報告は、その日のうちに行います。「自分の対応が悪かったから」と思って、黙ってしまう人は少なくありません。

でも、報告がなければ、施設は次の手を打てないのです。同じ方の介助で、別の職員が同じ目にあうかもしれません。

話す順番は、けが、起きたこと、直前の様子、の順にすると伝わりやすくなります。自分の反省は、最後でかまいません。

口で言いにくいときは、紙に書いて渡す方法もあります。厚生労働省は、相談したい内容を書き出せる「相談シート」も公開しています。

5. チームで原因を考え、対応をそろえる

最後は、同じことが起きないように、チームで話し合います。暴力が認知症の症状なのかどうかは、施設だけで決めないでください。主治医やケアマネジャーの意見も聞きながら判断するよう、マニュアルでも勧めています。

話し合うのは、たとえば次のようなことです。

  • 暴力が出やすい時間帯や、介助の場面に偏りはないか
  • 入浴や排泄など、ふたりで入ったほうがいい介助はないか
  • 声のかけ方や、近づく方向をそろえられないか

職員ごとに対応がばらばらだと、本人も混乱します。決めたことは申し送りで共有し、全員で同じやり方を試してみてください。

報告を受ける側へ|最初の一言は「けがはない?」

叩かれたと報告した直後に、上司の第一声が「対応に問題はなかった?」だった。そんな話を、介護職の人たちのやり取りで何度も見かけます。

管理する側が経緯を聞くのには、理由があります。施設には、原因を調べて再発を防ぐ責任があるからです。けれども、それは最初に聞くことではありません。

最初に聞くのは「けがはない?」です。その次に「受診は要る?」「今日は交代しようか」。経緯を聞くのは、本人が落ち着いてからで足ります。

厚生労働省のマニュアルも、相談を受けるときは、原因の分析を聞き取りと分けて行うよう求めています。受けた職員が、報告の場でさらに傷つかないためです。

最初の一言を間違えると、次から報告が上がってこなくなります。報告が止まった職場では、次の暴力を防ぐ手がかりも消えてしまう。管理者が職員の盾になる考え方は、スタッフファーストの介護にも書きました。

「プロなんだから笑顔で」と言われたときに

暴言を浴びた直後に、笑顔でいるのは難しいことです。腹が立つ、怖い、悲しい。そう感じるのは、プロでも当たり前です。

「割り切ればいい」「事故さえなければ十分」という助言もあります。ただ、気持ちにふたをし続けると、いつか別の形で出てきます。

求められているのは、感情を持たないことではありません。感情が動いたあとに、その場を離れ、交代し、記録して、報告すること。この記事の5つの順番は、そのための型でもあります。イラッとした瞬間の落ち着き方は、イラッとしたら6秒待とうで紹介しています。

施設として、先に決めておきたいこと

2021年度の介護報酬改定で、介護事業所にはハラスメント対策の方針を決め、相談の体制を整えることが求められました。利用者や家族からの暴言や暴力についても、対策を講じることが望ましいとされています。

現場で役に立つのは、次の2つを先に決めておくことです。

  • 暴力を受けたとき、誰に・どの順番で知らせるか(初動の手順)
  • 報告や相談を受ける人を誰にするか(相談の窓口)

決めた手順は、入職したときに説明しておくと安心です。被害にあったときに施設が一緒に動いてくれると分かっていれば、職員は落ち着いて働けます。

職員研修で扱うなら、厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策」のページがそのまま使えるはずです。マニュアル、研修の手引き、事例集、相談シートが無料で公開されています。

よくある質問

認知症の方の暴力を報告すると、本人の立場が悪くならない?

報告は、本人を責めるためのものではありません。症状によるものなら、まず見直すのはケアの方法や介助の人数です。報告がないと、その見直しも始まりません。

警察に相談するのは、どんなとき?

マニュアルでは、必要に応じて警察にも連絡するとされています。けがが重いときや、症状とは考えにくい暴力がくり返されるときが目安です。判断は職員個人ではなく、施設として行います。


暴力を受けたと話すのは、弱さではありません。ひとりで抱えず、順番どおりに周りを頼ってください。

わすれもの
わすれもの

利用者さんのことを大切に思っている人ほど、叩かれても「私が悪かった」と飲み込んでしまいます。でも黙っていると、同じことが次の誰かに起きます。報告は、あなたと仲間を守るための仕事です。

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