施設の見学予約は、ご家族から直接いただくこともあれば、紹介会社の担当者を通していただくこともあります。
見学当日、ご家族に「どうやってうちを見つけられたんですか」とうかがうと、こんな答えが返ってくることがあります。
「ネットで探していたら電話がつながって、無料でいいと言われたので、そのままお願いしました」
無料だから使った。でも、なぜ無料なのかは知らないまま。これが、いちばん多いパターンです。
老人ホーム紹介会社は、使い方さえ分かっていればとても便利な仕組みです。でも、仕組みを知らないまま使うと、「なぜかこの施設ばかりすすめられる」という状態になりやすい。
施設側でその電話を受けている生活相談員のわすれものです。この記事では、紹介会社のお金の流れと、失敗しない使い方をお話しします。施設探し全体の流れは親を施設に入れる前に読むガイドにまとめていますので、あわせてどうぞ。
老人ホーム紹介会社は、なぜ無料で使えるのか
答えは、成功報酬型だからです。
ご家族が相談しても、見学に何回行っても、費用はかかりません。入居が正式に決まったときに、受け入れた施設側から紹介会社へ紹介手数料が支払われます。
手数料の額は、入居者の月額利用料の1か月〜3か月分程度、あるいはそれに相当する定額で設定されることが多いとされています。ある紹介事業者が公表した数字では、成約3,550件に対して紹介手数料の平均が約30万円でした。
つまり、あなたが払っていないお金は、入居先の施設が払っています。
これは別に、後ろ暗い話ではありません。施設は常に空室を埋めたいので、広告費の一種として合理的な支出です。ただ、この一点を知っているかどうかで、相談の受け止め方がまるで変わります。
施設側から見た、紹介会社の担当者
私自身も、紹介会社の担当者から週に何度か電話を受けます。
「要介護3の女性で、〇月に退院予定です。空室はありますか」
こういう形で、状態・費用の希望・退院の時期がまとまって届きます。こちらとしては非常にありがたい。ご家族が一から探すよりも、はるかに条件が整理されているからです。
腕のいい担当者は、施設の雰囲気や職員の顔ぶれまで分かったうえで話を持ってきます。「ここのフロアは落ち着いているから、この方には合うと思う」と言える人もいます。
ただ、こうも思います。その担当者にとってのお客様は、相談したご家族と、手数料を払う施設と、二人いるのです。
悪意の話ではありません。構造の話です。
知っておきたい、3つの注意点
①提携している施設しか、紹介されません
紹介会社が紹介できるのは、契約を結んでいる施設だけです。
あなたの家の近くに評判のいいホームがあっても、その紹介会社と契約していなければ、候補に出てきません。「この地域だとこの3つですね」と言われたとき、それは地域の全部ではなく、その会社が扱える範囲です。
②手数料が出ない施設は、話題にのぼりにくい
特別養護老人ホーム、グループホーム、ショートステイ。これらは紹介手数料の対象外であることが多く、そもそも相談を受け付けていない会社もあります。
費用を抑えたいご家族にとって、特養は最初に検討すべき選択肢です。けれど紹介会社に相談すると、そこは飛ばして有料老人ホームの話から始まることがあります。特養と老健の違いはこちらの記事に、ショートステイの実際は生活相談員が見たショートステイのリアルにまとめています。
選択肢から外れたのではなく、はじめから入っていないことがある。ここは気をつけてください。
③高額な紹介料が問題になっています
2024年11月以降、紹介手数料をめぐる報道が相次ぎました。
難病や末期がんなど、医療的ケアが必要な方の場合です。相場を大きく上回る紹介料が支払われていた実態が明らかになりました。1人あたり最高150万円という例も報じられています。
これを受けて、2024年12月に指針が改定されました。有料老人ホームの設置運営標準指導指針です。社会保障費収入を強くあてにした手数料設定は、禁止されました。ただし、この指針が縛るのは施設側です。紹介会社そのものは対象外で、業界の自主規制に委ねられているのが現状です。
医療依存度の高い方ほど、手数料の高い施設に話が寄りやすい。そういう構造がありうる、ということは知っておいてよいと思います。
それでも、紹介会社を使う価値はあります
ここまで読んで、使わないほうがいいのかと思われたかもしれません。逆です。
個人で探すのがいちばん大変なのは、空室情報です。
施設の空室は動きます。先週ふさがっていた部屋が今週空くこともあれば、その逆もある。ホームページの情報は更新が追いついていないことが多く、電話で一軒ずつ確認していくのは、仕事をしながらではまず無理です。
退院期日が決まっているときは特にそうです。「今月中に決めないといけない」という状況で、一人で十数施設に電話をかけ、見学の日程を組み、費用を比較する。これを家族だけでやるのは、現実的ではありません。
紹介会社の相談員は、地域の施設をよく知っています。条件を伝えれば、その日のうちに候補が返ってきます。仕組みを分かったうえで使えば、これほど心強い相手はいません。
失敗しない、3つの使い方
①最初に「特養も含めて考えています」と伝える
これだけで、話の前提が変わります。
手数料の出ない選択肢も検討していると先に言っておけば、担当者も無理に有料老人ホームへ寄せにくくなります。「特養の申し込みもしておきたいのですが、待機の見込みはどうですか」と聞いてみてください。誠実な担当者なら、きちんと答えてくれます。
②2社に相談して、出てくる施設が重なるか見る
1社だけだと、その会社の提携範囲が地域の全部に見えてしまいます。
2社に同じ条件で相談すると、重なる施設と、片方にしか出てこない施設が見えてきます。重なった施設は、少なくとも複数の目から見て条件に合っている、ということです。地域にどれくらいの選択肢があるのかも、これで感覚がつかめます。
③見学では、施設の相談員に直接聞く
見学に紹介会社の担当者が同行してくれることがあります。心強いのですが、質問はできるだけ施設の職員に直接ぶつけてください。
夜勤は何人体制か。看取りはできるか。医療的な処置はどこまで対応できるか。退去をお願いすることがあるのはどんな場合か。居室のタイプで迷われている方は、個室と多床室の違いもあわせて見ておくと、見学の目が変わります。
このあたりは、施設の中の人間でないと正確に答えられません。そして、この質問にごまかさずに答える施設は、たいてい信用できます。
まとめ:知ったうえで頼れば、心強い相手です
老人ホーム紹介会社は、無料で使えます。その原資は、入居先の施設が払う紹介手数料です。
- 紹介されるのは、提携している施設だけ
- 特養やグループホームは、話に出てこないことがある
- それでも、空室情報と段取りの面で、使う価値は大きい
仕組みを知らずに使うと、示された候補が全部に見えます。知ったうえで使えば、相手の得意な部分だけを、こちらから引き出せます。
親の住む場所を決めるのは、ご家族です。紹介会社は、そこまでの道のりを短くしてくれる相手であって、決める人ではありません。
そのことだけ頭の隅に置いておけば、あとは遠慮なく頼っていいと思います。

私も相談員になりたての頃は、紹介会社からの電話が苦手でした。条件ばかり先に来て、その方の人となりが見えてこない気がしたからです。でも何年か経って、分かったことがあります。いい担当者ほど、電話の最後に一言を足してくれるんです。「この方、昔は畑をされていたそうです」というような。数字だけで動いていない人は、ちゃんといます。焦って一社に決めず、そういう人に出会えるまで、何回でも相談してみてください。

コメント