認知症の親に泥棒扱い…心が折れない受け止め方3つ

認知症の親に泥棒扱い…心が折れない受け止め方を表したイラスト 自宅介護

介護施設で生活相談員をしておりますわすれものです。


「私の財布、知らない?」
「あんた、盗ったでしょう」

そう言われた瞬間、頭が真っ白になった経験はありませんか。さっきまで普通に話していた親が、急に自分のことを犯人扱いしてくる。台所に立っていた手が止まり、何も言えなくなる。あの感覚を、私は何度も家族から聞いてきました。

ずっと大切にしてきた親に、まるで泥棒みたいに見られる。あんなに尽くしてきたのに、なぜ自分が疑われるのか。仕事を休んで通院に付き添い、夜中のトイレ介助で寝不足になりながら、それでも頑張っているのに「あんたが盗った」と言われる。

施設の現場でも、多くのご家族がこの「物盗られ妄想」で心をすり減らしていらっしゃいます。泥棒扱いされて平気な人なんて、この世にひとりもいません。

今日は「物盗られ妄想」について、現場で見てきた家族の本音と、心が折れない受け止め方をお話しします。読み終わるころには、少しだけ肩の力が抜けているはずです。


なぜ「物盗られ妄想」は、こんなにも家族を苦しめるのか

物盗られ妄想は、認知症の方が「自分の物を誰かに盗られた」と思い込んでしまう症状です。財布、通帳、指輪、入れ歯、健康保険証…なんでも対象になります。アルツハイマー型認知症の中期に多く現れますが、レビー小体型でも見られる、ごく一般的な症状です。

一見すると「忘れただけでしょう」と思われがちですが、本人にとっては「絶対に盗まれた」という揺るぎない確信があります。だから家族がいくら「ちゃんと探してみようよ」と言っても、「あんたが隠したんでしょう」と返ってくる。論理では太刀打ちできないのです。

そしてここがいちばんつらいところなのですが、疑いの矛先は「いつもそばにいてくれる、いちばん大切な家族」に向かいやすいのです。何の関わりもない近所の人が疑われることはほとんどなく、毎日顔を合わせている娘さん、お嫁さん、息子さんに矢が向く。

私自身も、お嫁さんが「義母から毎日泥棒扱いされて、もう家に居たくない」と泣きながら相談に来られたことが何度もあります。一番介護を頑張っている人が、一番傷つく。これがこの症状の残酷さです。


物盗られ妄想で家族が追い詰められる、3つの理由

理由①「記憶の欠落を、脳が物語で埋めてしまう」

認知症の方は、自分が「どこに置いたか」「いつ使ったか」を覚えていられません。でも財布がない、という事実だけは目の前にある。

そのとき脳は、欠けた記憶のすき間を「誰かが盗ったに違いない」というもっとも辻褄が合うストーリーで埋めてしまうのです。これは本人の意地悪でも嘘でもなく、脳がそう作ってしまうから止められません。

「なぜそんなひどいことを言うの?」と責めても、本人には何も悪いことをしている自覚がない。むしろ「私は被害者なのに、誰も信じてくれない」という気持ちでいることも多く、ここに大きなすれ違いが生まれます。

理由②「身近な人ほど、標的にされやすい」

物盗られ妄想は、見ず知らずの他人ではなく、最も信頼してきた家族や、毎日世話をしてくれる人に向けられるのが特徴です。

これは「いつもそばにいる人=物を触れる位置にいる人」と脳が結びつけてしまうため。皮肉なことに、頑張って介護している人ほど疑われやすい構造になっています。

現場では、長男のお嫁さんが毎日標的になり、別居している実娘さんは「お母さん、ちゃんと面倒みなさいよ」と責める…そんな悲しい場面を何度も見てきました。介護に手をかけていない人ほど、なぜか家庭内で発言力を持ってしまうのも、家族介護のしんどさです。

理由③「家族には、逃げ場がない」

施設の職員なら、シフトが終われば家に帰れます。嫌な利用者から距離を置く、という選択肢が制度として用意されています。でも家族は、24時間その人と暮らしている。

「泥棒」「あんたが盗ったんでしょう」と毎日言われ続けると、自分は何も悪いことをしていないのに、心がすり減っていく。眠れなくなる、食欲がなくなる、ため息ばかりつくようになる。これらは介護うつの初期症状でもあります。

しかも他人に話しても「親なんだから優しくしてあげて」「認知症なんだから仕方ない」と言われ、誰にも理解されない。家族介護がうつ状態に近づいていくのは、こうした孤立がいちばんの原因です。


本当に必要なのは「正しく対応すること」じゃない

物盗られ妄想への正しい対応として、よく「否定せず共感する」「一緒に探す」と言われます。これは確かに大切な基本です。

でも、毎日毎日「泥棒」と言われ続けて、それを完璧にこなすなんて、人間には無理です。私が現場で出会ったベテラン介護士でさえ、「家族が同じことをするのは別次元のしんどさだ」と口を揃えます。

現場でご家族にお伝えしているのは、「正しい対応より、あなたが壊れない対応を優先してください」ということ。

カッとなって言い返してしまっても、その場を離れて泣いてしまっても、何も悪くありません。完璧な介護者になる必要はないし、なれるはずもない。介護は「続けられること」がいちばん大切で、そのためには介護する人自身が消耗しすぎないことが何より重要なのです。


今日からできる、心が折れない3つの対応

①「一緒に探す」で、敵から味方に変わる

「盗ってない」と否定すると、本人の中で「やっぱりこの人が犯人だ。だから否定するんだ」という確信が強まってしまいます。

そうではなく「大変!一緒に探そうか」と声をかけてみてください。同じ方向を向いた瞬間、敵から味方に変わるのです。

見つかったときも「よかったね、あってよかった」と言うだけで十分。「ほら言ったでしょ」「だから盗られてないって」は禁物です。本人のプライドを刺さないことが、次の妄想を呼ばないコツでもあります。

②「その場を5分離れる」だけで、空気がリセットされる

言い合いになりそうなとき、あえてキッチンやトイレに5分逃げる。それだけで、認知症の方はさっき何を怒っていたかを忘れてくれることが多いのです。

これは逃げではありません。介護する側の心を守るための、立派な技術です。深呼吸をして、冷たい水で顔を洗って、戻ったときには何事もなかったように「お茶でも飲もうか」と話しかける。それで十分なのです。

③「第三者をひとり入れる」で、家族の孤立を解く

ケアマネージャー、地域包括支援センター、デイサービスの職員、家族会。誰でもいいので、家族以外の「事情を知っている人」を一人だけ確保してください

「実はこんなことを言われて…」と話せる相手がいるだけで、心の重さが半分になります。家族だけで抱え込んでいたら、必ずどこかで折れてしまいます。話す相手は身近である必要はなく、月に一度の電話相談だって立派な「逃げ道」です。


まとめ:疑われたあなたは、何も悪くない

物盗られ妄想は、認知症という病気が起こしている症状であって、あなたへの本心ではありません。あなたを困らせたくて言っているのでも、本気で犯人だと思っているのでもなく、ただ脳がそう描いてしまっているだけなのです。

「親なんだから受け止めなきゃ」「嫁なんだから我慢しなきゃ」…そんな声に縛られなくていい。泥棒扱いされて傷つくのは、あなたがそれだけ真剣に介護してきた証拠です。

正しい対応を完璧にこなす必要はありません。今日もう少し優しくできなかった、と自分を責める必要もありません。明日もまた言われるかもしれない。でも今日のあなたは、もう十分に頑張っています。

「いい嫁」「いい娘」「いい息子」をやめても、誰もあなたを責めません。あなたが壊れない介護こそ、いちばん長く続けられる介護です。


わすれもの
わすれもの

施設に来られるご家族からも、「お金がない、あなたが盗ったんでしょう」と何度も疑われ、つらい思いをしたというご相談をよく伺います。

「どうして私が…」と感じるのは、とても自然なことです。それだけ、いちばん近くで向き合ってこられた証でもあります。

今、ご自宅で介護をされている方で、しんどさを抱えているなら、それは真剣に向き合ってきたからこそ。一人で抱え込まず、どこかでその気持ちを吐き出してくださいね。

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