実家の台所に、同じ醤油が5本並んでいた。財布を開けてみると、小銭でパンパンになっている。レジで小銭を数えられなくなり、毎回お札で払っているサインです。
この記事では、認知症の親のお金の管理を、本人のプライドを傷つけずに引き継ぐ4つの進め方をまとめました。「財布を盗られた」と言われたときの対応と、きょうだいに使い込みを疑われないための備えにも触れています。
介護施設で生活相談員をしているわすれものです。お金の話は、家族がいちばん切り出しにくく、そしていちばんもめやすい話題です。だからこそ、症状が軽いうちに少しずつ進めておく価値があります。
なぜ「お金だけは譲らない」のか
通帳や財布を預かろうとすると、強く拒否される。多くの家庭で起きることです。本人にとってお金は、単なる支払いの道具ではありません。自分で人生を決めてきた証であり、自立の最後の砦です。
だから「もう無理でしょう」と取り上げる形は、ほぼ必ず失敗します。目指すのは全部を預かることではなく、本人が使える部分を残しながら、少しずつ一緒に管理する形です。ここを押さえるだけで、この先の話がずいぶん楽になります。
お金の困りごとは、ある日突然の形で表面化します。暗証番号を何度も間違えてカードが止まった。銀行の窓口で質問に答えられなかった。同じ支払いを二重にしていた。こうした出来事が最初のサインになることが多いのです。
もめずに引き継ぐ4つの進め方
進め方1|まず現状を静かに把握する
最初の一歩は、説得ではなく把握です。どの銀行に口座があるか。年金はどこに振り込まれるか。公共料金や保険料は、何がどこから引き落とされているか。通帳・カード・印鑑のありかも含めて、分かる範囲で書き出します。
このとき、本人の目の前で通帳を全部広げるのは避けてください。「調べられている」と感じさせた時点で、警戒心は一気に強まります。郵便物や引き落とし明細から、静かに拾っていくのが現実的です。
書き出したメモは、実家ではなくあなたの手元で保管してください。実家に置くと、本人がしまい込んで見つからなくなることがあります。
進め方2|財布は取り上げず「使える形」で残す
財布を取り上げられた方の混乱と怒りを、施設の現場で何度も見てきました。おすすめは逆の発想です。財布は本人に持っていてもらい、中身を数千円と小銭に整える。減った分は、こちらが静かに足しておきます。
「自分の財布で買い物ができている」という事実が続くことが、何より大事です。豆腐を3つ買ってきても、笑って食卓に出せる範囲なら成功と考えてください。
一方で、キャッシュカードや多額の現金を持ち歩いている場合は、置き場所を一緒に決め直す相談をしてください。「なくすと大変だから、家のこの引き出しに」という言い方なら、受け入れてもらいやすくなります。
進め方3|支払いを自動化して、被害の入り口を塞ぐ
現金の出番を減らすほど、トラブルは減ります。公共料金や固定費は、口座引き落としかカード払いにまとめてしまいましょう。
同時に塞ぎたいのが、外からの入り口です。訪問販売と電話勧誘は、判断力が揺らいだ方を正確に狙ってきます。固定電話は留守番電話を基本にして、知らない番号には出ない設定に。高額な契約に気づいたら、消費者ホットライン「188」へ電話すると最寄りの消費生活センターにつながります。契約から一定期間内なら、クーリングオフできる場合があります。
新聞が2紙届いている。見慣れない健康食品の箱がある。そんな変化は被害のサインかもしれません。実家に行ったら、郵便受けと玄関まわりを見る習慣をつけてください。
テレビや電話の通販で「定期購入」になっているケースにも注意が必要です。本人は一度だけ買ったつもりでも、毎月届いて引き落としが続きます。通帳の記帳を続けていれば、こうした異変には数字で気づけます。
進め方4|家族だけで抱えず、制度に早めにつなぐ
症状が進むと、本人にしかできない手続きが難しくなっていきます。定期預金の解約などは、その代表です。「まだ大丈夫」の時期にこそ、使える選択肢を知っておいてください。
通帳の預かりや日々の払い戻しの支援なら、社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」が使えます。判断能力が大きく低下したあとの財産管理は「成年後見制度」の領域です。元気なうちに備える「家族信託」という方法もあります。
どれが合うかは、家庭の事情によって違います。まずは地域包括支援センター(高齢者と家族の総合相談窓口)に「お金の管理が心配になってきた」と伝えてください。無料で、状況に合う窓口につないでくれます。銀行にも代理人カードなどの仕組みがあるので、窓口で聞いてみる価値があります。
銀行は、本人の判断能力に不安があると分かると、資産を守るために取引を慎重に進めるようになります。「動かせなくなってから慌てる」のがいちばん苦しい形です。手続きは、本人が窓口で意思を伝えられるうちが最もスムーズだと覚えておいてください。
「財布を盗られた」と言われたら
お金の管理を始めると、セットで増えやすいのが「盗られた」という訴えです。管理してくれる一番近い人ほど、疑われやすい。理不尽ですが、それだけ頼っている相手だということでもあります。
言い返して事実を証明しようとするのは逆効果です。「それは困ったね、一緒に探そう」と探し始めて、見つける役は本人に譲る。この流れがいちばん穏やかに収まります。しまい込みの定位置(引き出しの奥、布団の下など)を把握しておくと、探す時間はぐっと短くなります。
それでも、疑われ続ければ心は削れます。つらくなったら、その場を少し離れて構いません。訴えの背景には「大事なものを自分で守れなくなっていく」不安があります。あなたへの攻撃ではないのだと、思い出せる範囲で思い出してください。
「使い込み」を疑われないために、記録を残す
見落とされがちですが、本当に深刻なのはきょうだい間の疑いです。「親のお金、あなたが管理してるんでしょう」。この一言から関係が壊れていった家族を、相談の場で何度も見てきました。
守りになるのは記録です。親のお金から支払ったものはレシートを残し、月に一度、簡単な出納メモをつける。ノートでも、スマホで撮った写真でも構いません。そして管理を始めるときに、きょうだいへ一言伝えておきます。「通帳はここにあって、こう管理する」。事後報告より、事前の一言です。
もうひとつ、親のお金と自分のお金を混ぜないことも徹底してください。親の費用は親の口座から。立て替えたら日付と金額をメモに残す。この線引きがあいまいになると、あとから説明できなくなります。
記録はあなたを縛るものではなく、あなたを守る盾になります。
認知症の親のお金の管理は、症状が軽いうちほど選択肢が多く、進むほど手続きが重くなります。全部を一度に整えようとしなくて大丈夫です。今日、通帳のありかをひとつ確認する。そこから始めれば十分です。
夜眠らない、介護を嫌がるなど、ほかの困りごとへの対応は認知症の困りごと対応ガイドにまとめています。

相談の場でお金の話になると、皆さん少し声が小さくなります。親のお金に触れる後ろめたさ、きょうだいの目。でも、放っておくほうがずっと危ないんです。あなたが動くのは、親を守るためです。堂々と、でも記録は丁寧に。応援しています。

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