高齢者施設で生活相談員をしておりますわすれものです。
はじめに
介護の現場では、どんなに丁寧に関わっていても、クレーム(苦情)が発生することがあります。
それは、職員が悪いというよりも、「人」と「人」が関わる以上、感情の行き違いや思い込みが生まれてしまうからです。
クレームは避けたいものですが、実は「現場を良くするチャンス」でもあります。
この記事では、介護現場でクレームが起こる主な原因と、家族との信頼関係を守るための正しい対応方法を、実例を交えながら詳しく解説します。
介護現場でクレームが起きる3つの主な原因
コミュニケーション不足
もっとも多い原因が「伝え方」のすれ違いです。
たとえば、
「忙しいのであとで伺います」
と伝えたつもりでも、家族からすると「冷たくされた」「後回しにされた」と感じてしまうことがあります。
介護の仕事では、「説明のタイミング」「言葉選び」「表情」が非常に大切です。
相手にどう伝わるかを意識し、
- 一言添える
- 相手の反応を見る
- ゆっくり話す
といった小さな工夫で、誤解を防ぐことができます。
情報共有のミス
職員間での情報共有不足も、クレームの大きな原因です。
「昨日は○○さんがこう言ってたのに、今日は違うことを言われた」
このような不一致があると、家族の信頼は一気に揺らぎます。
申し送りや記録は、ただの事務作業ではありません。
ご利用者の生活を守るためのチームの連携ツールです。
小さな変化でもしっかり共有し、「施設全体で同じ方向を見る意識」を持ちましょう。
家族の不安や罪悪感
家族のクレームの中には、怒りよりも「不安」や「罪悪感」が隠れていることがあります。
「自分が面倒を見られないことへの申し訳なさ」
「施設に任せてしまっていいのか」という葛藤。
こうした背景を理解せずに表面的に対応すると、感情的な衝突が起きやすくなります。
家族の言葉の裏にある気持ちを読み取り、
「心配されているのですね」
「お母さまのことをとても大切に思っていらっしゃるのですね」
といった共感の一言を添えるだけで、空気が柔らかくなります。
クレーム対応の正しい手順とポイント
まずは話を最後まで聞く
クレーム対応で最初に意識したいのは「傾聴」です。
途中で遮ったり、言い訳をしたりすると、相手の怒りを増幅させてしまいます。
相手の話が終わるまでじっと聞き、
「そうだったのですね」
「お気持ちをお聞かせいただきありがとうございます」
と一言添えるだけで、相手は「聞いてもらえた」と感じ、落ち着くことが多いです。
怒りの奥には「わかってほしい」という気持ちがあります。
まずは聞く姿勢を示すことが、対応の第一歩です。
謝罪は早めに・具体的に
「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。」
この一言を早めに伝えることで、感情の高ぶりを和らげられます。
大切なのは、「誰が悪いか」よりも「どうすれば信頼を回復できるか」です。
言い訳をせずに、
- どんな状況で起きたのか
- 今後どう改善するのか
を明確に伝えると、誠意が伝わります。
謝罪=負けではありません。
それは信頼を取り戻すためのスタートラインです。
報告・共有・記録を忘れない
クレームを受けたときは、必ず記録と共有を行いましょう。
「誰が・いつ・どんな内容で・どう対応したか」を明確に残すことで、再発防止にもつながります。
特に、同じ家族が別の職員に再び同じ話をしたとき、情報共有がされていないと不信感が倍増します。
記録を「守りの道具」ではなく、「チームケアの証拠」として活用する意識が大切です。
クレームを未然に防ぐ5つのコツ
- 小さな変化でもこまめに報告する
→ 「今日はお食事を完食されましたよ」といった前向きな報告が信頼を築きます。 - ご利用者の様子を笑顔で伝える
→ 笑顔は“安心のサイン”。「感じがいい職員」という印象が積み重なり、クレームを防ぎます。 - 困ったときは一人で抱え込まない
→ 感情的な対応を避けるためにも、上司や同僚に相談しましょう。共有はチームの防波堤です。 - 言葉遣い・表情・姿勢を意識する
→ 同じ言葉でも、言い方ひとつで印象は大きく変わります。鏡を見ながら自分の表情をチェックするのも有効です。 - 「ありがとう」を伝え合う職場づくりを
→ 職員同士が感謝を言い合える環境は、自然と温かい雰囲気を生みます。利用者や家族にもその空気が伝わります。
クレームを防ぐ鍵は、「何を言うか」ではなく「どんな雰囲気で伝えるか」。
安心感のあるコミュニケーションが、最大のクレーム対策です。
まとめ|クレームは信頼関係を築くチャンス
介護現場でクレームを完全に防ぐことはできません。
しかし、誠実な対応と前向きな姿勢で向き合えば、クレームは「信頼を深めるチャンス」に変わります。
クレーム対応の目的は、相手を黙らせることではなく、お互いに納得できる関係を取り戻すことです。
焦らず、落ち着いて、
「どんな思いがあってこの言葉が出たのか」
を受け止める。
その積み重ねが、安心して暮らせる介護の現場をつくっていきます。

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