高齢者施設で生活相談員をしておりますわすれものです。
はじめに:なぜ「身体拘束のグレーゾーン」が問題になるのか
介護の現場では、身体拘束は原則として禁止されています。
それでも、毎日動き続ける現場のなかで「これは拘束にあたる?」「安全のために必要?」と迷う瞬間が少なくありません。
そしてこの“グレーゾーン”こそが、家族との誤解やトラブルが最も起きやすい部分です。
・転倒させたくない
・ケガにつながってほしくない
・でも、自由は奪いたくない
介護職も家族も、実は同じ気持ちで迷っています。
この記事では、その曖昧に感じやすいラインをわかりやすく整理し、現場でも家族でも使える判断基準をお伝えします。
身体拘束とは?まず押さえるべき基本
身体拘束とは、本人の意思に反して行動を制限することを指します。
国が定める具体例は以下のようなものがあります。
- ベッドから離れられないようにする
- 自分で外せないミトン(手袋)を付ける
- 身体をひもやベルトで固定する
- 車イスから立てないようにテーブルで塞ぐ など
✔ “やむを得ない場合”の3条件
身体拘束は、以下の3つすべてに当てはまる場合のみ例外として認められます。
- 切迫性(このままだと本人が危険)
- 非代替性(他の方法では防げない)
- 一時性(一時的な対応である)
この3つが揃わなければ、身体拘束はしてはいけません。
【どこからがグレー?】現場でよくある曖昧な6つのケース

ここが一番知りたい部分だと思います。
現場でも家族からも質問が多い“迷いやすいライン”を、実体験ベースの視点で整理しました。
ベッドガードを「上げっぱなし」
ベッドから落ちないように…と思って上げたガード。
しかし、本人の意思なく常に上がっている状態は“身体拘束”と判断される場合があります。
✔ ポイント
・離れたい意思があるのに動けない → 拘束
・自分で上げ下げできる状態 → 問題なし
ミトンの使用
点滴の自己抜去防止などで使われますが、外せない構造のミトンは原則NG。
家族からも「親が縛られているのでは?」と誤解されやすい部分です。
車イスのテーブル固定
テーブルを外せない状態での使用は、立ち上がりを阻害するため身体拘束と見なされやすいところです。
ナースコールを持てない状態
・手の届かない位置
・ベッド柵の外側に置いてある
これらは「助けを呼ぶ手段を奪っている」とされる可能性があります。
センサーを強制的に付ける
センサーそのものは拘束ではありませんが、
本人の意思を聞かずに“強制”するとグレーに近づきます。
夜間の離床防止で過剰になるケース
夜勤帯の不安から「とりあえずガードを上げる」「動かないように配置する」など、
“安全のため”のはずが拘束に当たってしまうことがあるため注意が必要です。
家族が不安に感じる理由と、誤解を防ぐ説明のコツ
身体拘束は、家族にとってとても敏感なテーマです。
「苦しそう」「自由がないのでは?」と感じると、施設への不信感につながります。
✔ 家族が不安を感じるポイント
- なぜその対応が必要なのか説明がない
- 突然ミトンやセンサーが付いている
- 見た目が“拘束されているように見える”
✔ 説明のコツ(結論 → 理由 → 安全対策 → 代替案)
- 結論:「転倒リスクが高く、このままだと危険がありました」
- 理由:「昨日○○の行動があり、ケガにつながりそうでした」
- 安全対策:「まずは危険を減らすために一時的に○○を行っています」
- 代替案:「他の方法を探しつつ、すぐに解除できるよう調整します」
この流れだと、家族にも納得してもらいやすくなります。
【職員向け】身体拘束のグレーゾーンを避けるための3つの考え方
リスクを“共有”する
一人で判断を背負い込むほど、グレーゾーンは生まれます。
チームで検討することで、「これは大丈夫」「これは説明が必要」が明確になります。
代替案を“セット”で考える
・環境の調整
・生活リズムの見直し
・見守りの強化
身体拘束を避けるための工夫は、意外と多く見つかります。
「家族への説明」でトラブルを減らす
現場では忙しさから説明を後回しにしがちですが、
ここを丁寧にするだけで誤解は大幅に減ります。
おわりに:身体拘束を減らすのは「完璧な介護」ではなく、チームの工夫
身体拘束を考えるとき、
「もっと良い対応があったのでは」
「自分たちの判断は間違っていなかったのか」
そんなふうに、自分を責めてしまう介護職や家族は少なくありません。
ですが、身体拘束の問題に正解はひとつではありません。
安全を守ることも大切、本人の自由を尊重することも大切。
その間で揺れ動くのは、決して“介護が下手だから”ではなく、
それだけ真剣に向き合っている証でもあります。
身体拘束を減らすために必要なのは、
完璧な知識や、誰か一人の頑張りではありません。
・「この対応、どう思う?」と相談できる関係
・危険を一人で抱え込まないチーム体制
・うまくいかなかった経験を責めずに振り返る時間
・家族とも情報を共有し、同じ方向を向くこと
こうした小さな工夫の積み重ねが、結果として身体拘束を減らしていきます。
また、家族にとっても「拘束をしない=放っておく」ではないことを知ることは、とても大切です。
見えないところで、職員が何を考え、どんな工夫をしているのか。
それが伝わるだけで、不安は安心に変わります。
介護は、いつも思い通りにいくものではありません。
それでも、「どうすればこの人が少しでも安心できるか」を
チームで考え続ける姿勢こそが、いちばん大切な介護のかたちです。
うまくいかない日があっても大丈夫。
完璧でなくていい。
今日の小さな工夫が、明日の安心につながっていきます。

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