高齢者施設で生活相談員をしておりますわすれものです。
はじめに|「何か言わなきゃ」と思ってしまうあなたへ
誰かの話を聴いているとき、
頭の中でこんな声が浮かぶことはありませんか?
- 何か役に立つことを言わなきゃ
- アドバイスしないと無責任に思われそう
- 黙っていたら、冷たい人だと思われるかも
沈黙が続くと、つい焦って言葉を探してしまう。
その感覚、とても自然なものです。
でも実はその「何かしなきゃ」という気持ちこそが、
相手との距離を少しだけ遠ざけてしまうことがあります。
この記事では、
アドバイスをしないで聴くことの意味と、
じっと聴き、そばにいるだけで起こる心の変化について、
日常の人間関係に照らしながらお伝えします。

生活相談員という立場上、さまざまな方から話を聴く機会が多くあります。少しでも話している方が満足して納得していただくためには、自分はどういう姿勢がいいのか?皆様のヒントになれば幸いです。
傾聴とは何か|「正しさ」より「その人の世界」
傾聴とは、
相手の話を評価せず、遮らず、急がせずに聴くこと。
大切なのは、
- 正しいかどうか
- 解決できるかどうか
ではありません。
「その人は、今こう感じている」
その事実を、そのまま受け取ろうとする姿勢です。
人は話しているうちに、
自分の気持ちを言葉にしながら、少しずつ整理していきます。
だから傾聴は、
相手の問題を解決するための技術ではなく、
相手が自分自身を理解するための時間を守ること
とも言えます。
なぜ人は、アドバイスを求めていないのか
悩みを打ち明けるとき、
人は必ずしも「答え」を求めているわけではありません。
むしろ多いのは、
- 分かってほしい
- 受け止めてほしい
- 否定されずに話したい
という気持ちです。
たとえ正論でも、
「それはこうしたほうがいいよ」
と言われた瞬間、心を閉じてしまうことがあります。
それは、相手が弱いからではありません。
つらいときほど、人は自分のペースを守りたいからです。
アドバイスをしないという選択は、
相手の考える力を奪わない、
とても尊重のある関わり方なのです。
「じっと聴く」時間に起きていること
じっと聴く時間は、外から見ると何も起きていないように見えます。
でも、相手の心の中では、確かに動きがあります。
- 感情が言葉になり
- 混乱が整理され
- 「本当はこう思っていた」と気づく
沈黙が訪れたとき、
「何か言わなきゃ」と思わなくて大丈夫です。
沈黙は、
相手が自分の内側と向き合っているサインでもあります。
その時間を奪わず、そっと待てること。
それも立派な「聴く力」です。
「そばにいる」だけで、人は安心できる
落ち込んでいるとき、
誰かが隣に座ってくれているだけで、
少し呼吸が楽になることがあります。
何も言われなくても、
「ここにいていいんだ」
「ひとりじゃないんだ」
そう感じられるからです。
寄り添うとは、
励ますことでも、元気づけることでもありません。
相手の感情から逃げず、同じ場所に立ち続けること。
それが「そばにいる」という支援です。
聴いているうちに気づく、自分自身の思い
傾聴は、相手のためだけの行為ではありません。
聴いていると、ふとこんな気持ちに気づくことがあります。
- 役に立てない自分が不安だった
- 何か言わないと価値がないと思っていた
- 沈黙に耐えられなかった
これらはすべて、とても人間らしい感情です。
聴くことを通して、
「自分はどう在りたいのか」
に気づくことも、傾聴の大切な側面です。
今日からできる「アドバイスしない聴き方」
特別な訓練は必要ありません。
できることは、とてもシンプルです。
- 最後まで話を遮らない
- 結論を急がせない
- 「それは大変だったね」と感情を返す
- 沈黙を失敗だと思わない
- そばにいることを選ぶ
これだけで、
「この人には話してもいい」
そう思ってもらえる関係が育っていきます。
うまく聴けなくても、大丈夫
完璧に聴こうとしなくて大丈夫です。
途中で焦ってしまっても、
言葉に詰まっても、
それは失敗ではありません。
大切なのは、
理解しようとする姿勢を持ち続けること。
その姿勢は、必ず相手に伝わります。
まとめ|聴くことは、最も静かで、最も深い支援
聴くことは、何か特別な言葉をかけることではありません。
アドバイスを探したり、正解を示したりしなくてもいい。
ただ、
じっと聴くこと。
相手のそばにいること。
それだけで、人は
「分かってもらえた」
「否定されなかった」
という安心感を受け取ります。
その安心感が、
自分の気持ちを見つめ直す力になり、
次の一歩を考える余白を生み出します。
うまく言葉が出なくても大丈夫です。
沈黙があっても、戸惑っても、
それは支援が足りない証拠ではありません。
むしろ、
急がず、変えようとせず、その場にとどまろうとする姿勢こそが、
人の心を守り、回復へとつながっていきます。
聴くことは、とても静かで、目立たない行為です。
けれどその静けさの中には、
相手を尊重し、信じるという、深い支援が込められています。
今日、誰かの話を聴く機会があったら、
「何を言うか」よりも、
「どうそばにいるか」を、少しだけ意識してみてください。
あなたがそこにいて、耳を傾けていること自体が、
もう十分、誰かの力になっています。

良いことを言おうと思えば思うほど、相手に届かないものです。
「あなたという存在が、そばにいるだけで安心できる」
そのような関係が、一番の理想かもしれません。

コメント